2026.05.09|最終更新日:2026.04.24

イギリスのシニアボーディングスクールにおけるハウス制度とは?

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近年の日本の教育現場では、運動会や文化祭などの学校行事において、学年を超えた“縦割りのチーム編成”が取り入れられるケースが見られます。こうした取り組みは一見イギリスのハウス制度と共通点があるようにも見えますが、その背景や役割という点では大きく異なります。

学校という概念の捉え方

家庭での生活が基盤となる日本では「学校=学ぶ場所」ですが、起床から就寝まで学校内で完結 し、生活・学習・人間関係が一体 化しているイギリスの寄宿学校(ボーディングスクール)でハウス制度を敷いている学校においては「学校=生きる場所」です。

つまり、ハウス制度は単なる寮制度や縦割り制度ではなくて、生活・教育・コミュニティの中心単位というとても重要な役割であり、社会の縮図を学校の中に作る仕組みを指しています。

ハウスの基本的な役割

  1. 生活の拠点(寮としての機能)

生徒はそれぞれ特定のハウスに所属し、そこで寝泊まりします。
ハウスには「ハウスペアレント(寮監)」やスタッフがいて、生活リズムの管理(起床・就寝など)、健康面・安全面の見守り、 日常の相談対応 などを行い、家庭に近い安心できる環境を提供します。

  1. 生徒のサポートとケア

ハウスペアレントやスタッフは、学業や人間関係の悩み相談 、メンタル面のサポート、個別の成長を見守る役割 を担い、学校生活の中での「心の拠り所」にもなります。教科を教える教師とは別に、より日常に近い距離で複数のスタッフが関わるため、生徒の変化に気づきやすい存在です。

  1. コミュニティ形成

ハウスごとに独自の文化や雰囲気があり、学年を超えた交流(縦のつながり)、チーム意識・帰属意識の育成、 留学生同士の交流 などを通じて、小さな社会(コミュニティ)を形成します。

  1. 教育的役割(人格形成)

ハウスでは、規律・責任感を学ぶ 、他人との共同生活スキル(協調性・思いやり)、自立心の育成 など、日常生活そのものが教育の一部となります。

つまり、教室外での「人間教育」を担っています。

  1. ハウス対抗活動(競争と協力)

多くのボーディングスクールでは、スポーツ大会 、音楽・演劇コンテスト、弁論大会、 学術・クイズ大会 など、ハウス対抗のイベントがあります。

そしてこれらの多くのイベントを通じて、チームワークの向上 やリーダーシップを培い、学校全体の一体感が生まれていきます。

上記の通り、色々な意味で、ハウスは「強い結束と自治で成り立つ小さな共同体」と言えます。

ではここで、イートン・カレッジとハーロウ・スクールという2つの名門シニアスクールのハウス制度をご紹介してみましょう。

ハウスの基本構造

イートンには、25のハウスが、ハーロウには12のハウスが存在 し、各ハウスに約60人~70人程度の生徒が所属 。ハーロウの方がやや小規模なので、ハウスの結束が強いのが特徴です。

入学時にどこかのハウスに割り当てられ、卒業まで基本的に同じハウスに留まります 。それぞれにハウスカラーが決まっており、普段生活する際に着用するカジュアルウェア、スポーツの対抗試合の際のユニフォームや上着・帽子の色、合唱や楽器のコンテストの際に胸に差すコサージュの色などにも反映されます。

つまり、ハウス=もう一つの「家」という感覚です。

ハウスを運営するスタッフの役割

各ハウスには「ハウスマスター(House Master)」がいて、生徒の生活全般を管理、学業・進路の相談 、保護者との連絡窓口 、規律の維持を担当します。

ハーロウでは、ハウスマスターはハウスの一部となっているハウスマスターのための居住空間に家族と共に住み、ハウスマスターの家のリビングルームを開放して、イギリスでは大人の仲間入りをする生徒の18歳の誕生パーティーを行うことなどもあり、家族的な雰囲気が強いかもしれません。

また、イートンでは「ハウスデイム(House Dame)」ハーロウでは「メイトロン(Matron)」と呼ばれる主に女性のスタッフが洗濯、繕い物、掃除、食事の割り当てなどの日常生活を支えており、 ハウスマスターやデイム、メイトロンの下にはそれぞれをサポートするアシスタントがいます。

そして、上記のスタッフ全員がハウス内や学校の敷地内の教員住宅に居住し、「生徒にとって最も身近な大人=お手本」として機能します。

縦のつながり(年齢混合)

イートンもハーロウも異なる学年が同じハウスで生活することで、上級生が下級生の面倒を見たり、リーダーシップや責任感を育成し、下級生が早く環境に慣れることができ、 小さな社会のような構造になります。イートンでは、学問の奨学生Academic Scholarの中でも特に選抜されたエリートがKing’s Scholarと呼ばれ、CollegeというKing’s Scholarのみが住むことが許される寮がありますが、ハーロウでは、Academic, Music, Sports, Art, Dramaなどのscholar(奨学生)が12の寮にほぼ均等に割り振られて住んでいます。

生活のリアル

低学年は相部屋、上級生になると個室。高学年になるにつれて、週末の自由な外出や飲酒なども許されるようになり、自由度が増していきます。

イートンではハウスごとにダイニングがあり、ハーロウは全校生徒が集って食事をするセントラルダイニング制。その他、両校ともにハウスには自習室や学年毎の談話室があり、自由時間や自習時間を含めて多くの時間をハウスで過ごし、 学校の教室よりもハウスで過ごす時間の方が濃いとも言われます。

ハウス対抗文化

ハウス間の競争も重要で、伝統競技(イートン:ウォールゲーム 、ハーロウ:ハーロウフットボール)、サッカー、ラグビー、クリケット(イートンではボート)などのスポーツ、軍隊教練行進、楽器や合唱、お芝居(更にハーロウでは演説が有名)などの学術・文化イベントをハウス毎に対抗合戦として競い合いますが、勝敗以上に、ハウス毎の団結・誇り・伝統が重視されます。また伝統的にハウス毎に強い領域が異なり、学業、スポーツ、音楽、演劇、スピーチがそれぞれ強いなどの特色があります。

教育的な意味

イートンもハーロウも、ハウス制度は単なる管理システムではなく、自立心、規律、 社会性、リーダーシップを育てるための「教育装置」です。

終わりに

夫のロンドン転勤による帯同で、期せずして10歳で週末にしか帰宅が許されない私立小学校の寮暮らしとなった息子。寮生活が始まるまで、自分で爪を切ったこともなければ、毎日の習い事も宿題もピアノの練習も母である私が息子の時間を管理し、私から言われるがままに課題をこなす日々でした。

しかし、寮暮らしとなると、全ての時間や生活の管理は息子自身が自分で取り組んでいかなければなりません。授業を抜け出しての楽器や美術のレッスン、宿題、予習・復習、テスト前の勉強、体調が悪い時にはスクールナースに自分で訴えて隔離を要請。特にハーロウスクールでは他の生徒達が宿題や予習に充てる時間の夜にスクールオーケストラのリハーサルやコンサートが行われるので、オーケストラのオーボエ奏者の息子は夜遅く寮に戻り、早朝に一人起き出して宿題や予習をこなす日も多数あり、低学年の時には相部屋だったこともあり、同じ寮の仲間たちと生活を共にする中で、そうした日々の努力が自然と共有される環境にありました。

もちろん失敗したり、悔んだりすることは数えきれない程あったかと思いますが、様々な経験をすることで自立が促されて、息子は逞しく育っていきました。最終学年の時に「ハーロウ創立以来初めてDeputy Head Boyに選出された日本人」という栄誉を受けたことは、息子がその後の人生を歩んで行く上で大きな自信となったことは間違いありません。

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北田 美香

記事執筆北田 美香

きただ みか

Kens Academic コンサルタント

在英歴15年。夫の海外転勤に伴い、息子とともに英国へ移住。息子をボーディングスクールに送り出した実体験に基づき、入学準備から現地生活の適応まで、保護者目線で実用的なアドバイスをお伝えしています。

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